1000 名前:名無しさん 投稿日: 2008/02/24(日) 02:21:23
1000ならヒカルとパフェ食べに行く

ヒカルとパフェと

日曜日。
それは神の定めた休息の日であり、だらだらと惰眠を貪っても誰からも文句は言われない。
そんな日曜日の朝、けたたましい目覚ましの音で、僕の意識は眠りから引き剥がされた。
何故休みの日だというのにこんな時間に起きたのかというと
今日はヒカルと出かける約束があるからである。


冷たい水で顔を洗いながら思い出すのは
先日ヒカルが間違えて霙姉さんのどら焼きを食べてしまった時の事。


――――――


「そうだ。
 今度オマエと――
 行ってみようかな。
 え?
 どこにって――
 バカ。
 オマエ、本当に鈍いな――
 鈍感!
 パフェ、食べにだよ――。
 オマエと2人なら――
 私でも、ちょっとは似合うかもしれない。
 まっかなさくらんぼののった――クリームパフェ……」


なんて、あまりにも幸せそうな顔をするものだから
冗談半分で誘ってみたら、ヒカルは顔を真っ赤にしながらOKしてくれたんだ。


――――――


身支度を整えていると、時計の針は9時を回っていた。
約束の時間にはちょっと早いけど、そろそろ出かけよう。


「ちょっと出かけてくるね。お昼は外で食べてくるからー」


全く返事が無い。
年少組はテレビに夢中、年長組は布団の国から出られないのかな?
これはこれで、ちょっと寂しいものがあるなぁ・・・。


――――――


ヒカルとの待ち合わせ場所である駅前に到着したのは9時半。
約束の時間よりも30分も前だった。
流石に早すぎたかな?
なんて事を考えながら、ベンチでもないかと辺りを見回すと
見慣れた制服姿のロングヘアーの少女が、噴水の前に立っていた。


「お待たせ、ヒカル。
 遅くなってごめんよ!」


慌てて駆け寄り、謝る。


「ん、私も今来たところだ」


良かった。
待たせたわけじゃなかったのか。


「ところで、折角の休日なのに何で制服なのさ?」


安心した僕は、とりあえず疑問をぶつけてみた。


「あ、いや、特に理由があるわけじゃないんだ。なんとなく・・・な」


目が泳いでるぞ、ヒカル。
何があったんだ?


じっと見つめている僕の視線に気付いたヒカルは
まるで信号のようにパッと顔を赤らめた。


「本当に理由なんてないんだぞ!
 別に、着ていく服に困ったとかそういうのじゃないんだ!」


見事に墓穴を掘ってくれました。


「そんなこと別にいいだろ、さっさと行くぞ!
 私を待たせた罰として、今日はオマエの奢りだからな!」


今来たと言ったばかりなのに、さらに墓穴を掘るヒカル。
よく見ると、寒さのせいか手が真っ赤になってるよ。
悪い事をしちゃったな。


「もう良いから早く行こう。
 パフェのために朝ご飯を抜いてきたから
 もうお腹がペコペコなんだ。」


と、ヒカルは僕の手を掴んだ。
何ですか、この可愛い生き物は?
なんて事を思っていたら、物凄い力で引っ張られた。
そしてズルズルと引きずられる僕。
流石はヒカル、見た目は可憐な乙女なのに物凄いパワーだな。


――――――


前もってヒカルが調べていた店へ
引きずられるようにして向かう道すがら
僕はずっと抱いていた疑問をぶつけることにした。


「何でわざわざ駅前で待ち合わせにしたの?
 同じ家に住んでるんだから、一緒に出かければ良かったんじゃない?」


ヒカルは立ち止まり、大きなため息をついた。


「オマエ、本当にバカだな。
 一緒に出かけたりしたら、妹達が張り付いてくるに決まってるじゃないか」


なるほど。
その妹達はテレビに夢中で、いってらっしゃいの一言もなかったけどね。
そして、何故か顔を真っ赤にしながら続ける。


「―――デートに行くんだから、二人きりじゃないとダメだろ?」


―――あ。


今度は僕が真っ赤になる番だった。


顔を真っ赤にしながら手を繋いで歩く、年頃の少年少女。
今の僕らの関係を10人に聞けば9人は、カップルだと答えるだろうね。


落ち着け、落ち着くんだ。
こういう時は素数を数えるんだ。
いちにーさんごーろくななはちきゅうじゅう!


「ええい、いいから行くぞっ!」


プイっと前を向いたヒカルに、僕はまたもや引きずられるのであった。


――――――


「着いたぞ」
物凄くファンシーな建物の前で、僕らは立ち止まった。
これは予想以上にハードルが高いお店だな。
「ねぇ、このお店って本当に男が入っても大丈夫なの?」
「たぶん・・・大丈夫じゃないかな?」
おいおい。
「まぁ入ってみれば分かるさ、行こう」
そう言って、ドアを開けたヒカルは、店内に1歩足を踏み入れて硬直した。


どうしたんだろう、と思いながらも
続けてドアをくぐった僕が見たものは、カップルの園だった。
どのテーブルを見ても、座っているのは男女二人組ばかり。


うわぁ、ハードルたけぇ。


引き返すなら今のうちだ。
日本代表もビックリなアイコンタクトを交わす僕ら。


「いらっしゃいませぇ。お二人様ですか?テーブル席へどうぞー」


嗚呼、遅かった。
必要以上にフリフリしたお姉さんに捕獲された僕らは
奥まった席へと監禁されたのだった。


「ご注文が決まりましたらお呼びくださいませぇ」


取り残される僕ら。
こうなったら覚悟を決めねば。
ヒカルの方を窺うと、既にメニューを開いて目を輝かせていた。
あぁ、僕だけ完全アウェーなのか。


結局ヒカルはクリームパフェを、僕はコーヒーを頼んだ。


――――――


数分後、注文したパフェが届けられた。
デカい。明らかに3人分はあるね、コレ。
早くも陥落気味な僕とはうらはらに、ヒカルは


「あぁ・・・これがパフェ・・・素晴らしい・・・」


と、うわ言の様に呟いている。
心なしか目も虚ろになっているようだ。
あのヒカルを骨抜きにしてしまうとは
恐るべし、クリームパフェ。


「あの、好きなように食べていいよ?」


僕が言い終わらないうちに、パフェに食らいつくヒカル。
白銀のスプーンが唸り、アイスの山を削る。
返す刀でフルーツを掻っ攫い、次々とお腹の中に収められていく!


あれよあれよと言う間に、パフェは半分ほど消失していた。
そして、ようやくヒカルの目に光が戻ってきた。


「あ、ゴメン、夢中になりすぎてた」
またも顔を赤く染めるヒカル。
ああもう可愛いなぁ!


「私ばっかりが食べててゴメンな。オマエも食べろよ」
と、アイスを掬い上げて、僕のほうに差し出してきた。
それじゃ、お言葉に甘えて・・・パクリ。
ん、美味しい。
寒い日に暖房の効いた部屋でアイスを食べるというのは素晴らしいね。
傍から見ても幸せそうな顔をしていたらしい僕に
ヒカルはさらにアイスを食べさせてくれる。


と、急にヒカルの手が止まった。


「―――コレって間接キ・・・」


クラっときた。


――――――


それから言葉も無く、顔を真っ赤にしながらパフェを食べ終えた僕らは
そそくさと店を離れたのだった。


――――――


それから商店街を見て回ったりしながら
ブラブラと過ごした僕らは、家に辿り着いた。


玄関の前でクルリと僕の方に向き直ったヒカルは
「今日は付き合ってくれてありがとうな
 でも、今日のことは皆には秘密だぞ?」
と、満面の笑顔で僕に言ったのだった。


――――――


ちなみに、家に入った僕らは一瞬で氷柱・・・いや僕のご主人様に捕まり
何故か僕だけ正座をさせられた挙句、お仕置きされたのは、また別のお話。